複数名訪問看護加算とは?
複数名訪問(看護)加算は、特定の状況下で複数の看護師等が同時に訪問看護を行った場合に算定できる制度です。
医療保険、介護保険、精神科それぞれに設けられており、名称や算定要件、報酬が異なるため、適切に算定するためには各制度の詳細を確認する必要があります。
複数名訪問看護加算の定義と目的
この加算は、以下の目的で設けられています。
- 主な目的
- 利用者の安全確保
- 質の高い看護サービスの提供
- 看護師の負担軽減
- 特殊な医療処置や対応が必要な場合のサポート
必要となる状況
複数名での訪問が必要となる主な状況は以下のとおりです。
1. 身体的理由(例:体重が重い利用者の移乗介助) 2. 安全確保(例:暴力行為のリスクがある場合) 3. 医療的ケアの複雑さ(例:人工呼吸器の管理) 4. 精神的サポート(例:精神疾患を有する利用者と家族それぞれへの対応) |
介護保険における複数名訪問加算(Ⅰ)(Ⅱ)
介護保険での複数名訪問加算には、(Ⅰ)と(Ⅱ)の2種類があります。
算定要件と適用条件
以下の項目のいずれかを満たし、利用者や家族の同意を得る必要があります。
①利用者の身体的理由により1人の看護師等による訪問看護が困難と認められる場合 ②暴力行為、著しい迷惑行為、器物破損行為等が認められる場合 ③その他利用者の状況等から判断して、上記①②に準ずると認められる場合 |
加算の種類と報酬
複数名訪問看護加算(Ⅰ)と(Ⅱ)の違い、および報酬単位数は以下の表のとおりです。
加算の種類 | 訪問者の組み合わせ | 30分未満 | 30分以上 |
---|---|---|---|
(Ⅰ) | 両名とも看護師、准看護師、保健師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士 | 254単位 | 402単位 |
(Ⅱ) | 看護師等と看護補助者 | 201単位 | 317単位 |
留意点
- 報酬請求における30分未満、30分以上の判断は、2人目の看護師等・看護補助者が必要な時間で行うこと
- 看護補助者の資格は問わないが、訪問看護事業所に雇用されていること
- 複数名での訪問が必要な理由を、看護記録等に明確に記載すること
- 支給限度額に含まれる加算であること
医療保険における複数名訪問看護加算
医療保険での複数名訪問看護加算は、対象と職種によって、加算額だけでなく、算定日数が異なります。さらに同一建物内の人数によっても加算額が変わります。
算定対象
以下のいずれかに該当する利用者が対象となります。
①特掲診療科の施設基準等別表第七に掲げる疾病等の者 ②特掲診療科の施設基準等別表第八に掲げる者 ③特別訪問看護指示書に係る指定訪問看護を受けている者 ④暴力行為、著しい迷惑行為、器物破損行為等が認められる者 ⑤利用者の身体的理由により一人の看護師による訪問看護が困難と認められる者 ⑥その他利用者の状況等から判断して、①から⑤のいずれかに準ずると認められる者(その他職員のみ) |
算定要件「イロハ二」と加算額
複数名訪問看護加算は誰と同行するかによってイ~二の4つに区分されています。各区分には、それぞれ上記の①~⑥の対象者が定められています。
以下に、わかりやすく表にまとめます。
算定対象 | 訪問者 | 算定日数 | 加算額 |
---|---|---|---|
①②③④ | イ 看護師等と訪問 | 週1日 | (1) 同一建物内1人又は2人 4,500円 (2) 同一建物内3人以上 4,000円 |
①②③④ | ロ 准看護師と訪問 | 週1日 | (1) 同一建物内1人又は2人 3,800円 (2) 同一建物内3人以上 3,400円 |
④⑤⑥ | ハ その他職員(看護師等又は看護補助者)と訪問 | 週3日 | (1) 同一建物内1人又は2人 3,000円 (2) 同一建物内3人以上 2,700円 |
①②③ | 二 その他職員(上記と同じ)と訪問 | 制限なし | (1) 1日に1回の場合: 同一建物内1人又は2人 3,000円 同一建物内3人以上 2,700円 (2) 1日に2回の場合: 同一建物内1人又は2人 6,000円 同一建物内3人以上 5,400円 (3) 1日に3回の場合: 同一建物内1人又は2人 10,000円 同一建物内3人以上 9,000円 |
留意点
- 利用者またはその家族の同意を得ること
- 複数のうち、1人以上は看護職員(保健師、助産師、看護師、准看護師)であること
- 看護職員と同行する者は、常に同行の必要はないが、必ず利用者の居宅において両者が同時に滞在する一定の時間を確保すること
精神科訪問看護における複数名精神科訪問看護加算
精神科訪問看護における複数名精神科訪問看護加算は、職種と1日に訪問する回数によって、加算額の違いと算定日数の制限があります。さらに同一建物内の人数によっても加算額が変わります。
算定要件
複数名精神科訪問看護加算は、以下の条件を満たす場合に算定できます。
- 同時に保健師または看護師と、他の保健師、看護師、准看護師、作業療法士、看護補助者、精神保健福祉士との同行による訪問看護を実施した場合
- 30分以上の訪問の場合(30分未満の場合を除く)
算定日数と加算額
職種と1日に訪問する回数によって、加算額と算定日数に違いがあります。
職種 | 訪問回数 | 同一建物内1人又は2人 | 同一建物内3人以上 | 算定日数制限 |
---|---|---|---|---|
保健師、看護師又は作業療法士と訪問 | 1日に1回の場合 | 4,500円 | 4,000円 | 原則週3日まで(基準告示第2の1と精神科特別訪問看護指示書の場合制限なし) |
1日に2回の場合 | 9,000円 | 8,100円 | ||
1日に3回以上の場合 | 14,500円 | 13,000円 | ||
准看護師と訪問 | 1日に1回の場合 | 3,800円 | 3,400円 | 同上 |
1日に2回の場合 | 7,600円 | 6,800円 | ||
1日に3回以上の場合 | 12,400円 | 11,200円 | ||
看護補助者又は精神保健福祉士と訪問 | – | 3,000円 | 2,700円 | 週1日まで |
留意点
- 主治医による精神科訪問看護指示書への複数名訪問必要性の記載が必要であること
- 利用者またはその家族の同意を得ること
- 複数のうち、1人以上は保健師または看護師であること
- 看護師等と同行する者は、常に同行の必要はないが、必ず患者宅において両者が同時に滞在する一定の時間を確保すること
介護保険・医療保険・精神科での複数名加算の比較表
複数名訪問看護加算の制度間比較を、正しい情報に基づいて修正しました。以下の表と説明で、各制度の特徴をより正確に把握できます。
修正後の比較表
項目 | 介護保険 | 医療保険 | 精神科訪問看護 |
---|---|---|---|
主な対象者 | 要介護・要支援者 | 特定疾患患者、急性増悪期の患者など | 精神疾患患者 |
算定回数制限 | 制限なし(支給限度額の範囲内) | 週1日、3回、制限なし(状況により異なる) | 原則週3回まで(状況により異なる) |
訪問者の組み合わせ | (Ⅰ)看護師等同士<br>(Ⅱ)看護師等と看護補助者 | 看護職員同士、または看護職員とその他職員 | 保健師または看護師と他職種(作業療法士、精神保健福祉士など) |
30分未満の算定 | 可能 | – | 不可 |
共通点
- 目的の共通性: すべての制度で、利用者の安全確保と質の高いケア提供を目的としています。
- 同意の必要性: いずれの制度でも、利用者または家族の同意が必要です。同意書は必要ありませんが、同意を得た旨を記録に残しましょう。
- 記録の重要性: 複数名での訪問が必要な理由を明確に記録することが求められます。
主な相違点
- 算定回数の制限: 介護保険では回数制限がなく、医療保険と精神科訪問看護では状況に応じて回数制限が異なります。
- 訪問者の組み合わせ: 各制度で認められる訪問者の組み合わせが異なり、特に精神科訪問看護では多様な職種との組み合わせが可能です。
重要なポイント
- 介護保険における複数名訪問看護加算は回数制限がないため、利用者の状態に応じて柔軟に対応できます。
- 各制度の詳細な算定要件や単位数は、その都度確認することが重要です。
- 利用者の状態や必要性を適切に評価し、適切な制度を選択することが求められます。
- 制度間の違いを理解することで、利用者に最適なケアを提供できます。
- 定期的に制度の更新や変更をチェックし、最新の情報を把握することが大切です。
この比較表と説明を参考に、複数名訪問看護加算の全体像を把握し、各制度の特徴の理解が深まれば幸いです。とはいっても全てを覚える必要はありません。実際の運用では、この知識を基に必要に応じて詳細を確認し、適切なサービス提供につなげていくことが重要です。
複数名訪問看護加算の算定の理解を深めるポイント
ここでは、理解を深めるため、言葉の定義、算定回数の制限、複数事業所間での算定可能性について解説します。
「看護師等」とは
介護保険、医療保険で出てくる「看護師等」とは、看護師、准看護師、保健師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士を指します。
「看護職員」とは
医療保険で出てくる「看護職員」とは、保健師、助産師、看護師、准看護師を指します。
「その他職員」とは
「その他職員」として認められる職種は、制度によって異なります。
- 介護保険:
- 看護補助者(資格は問わないが、事業所に雇用されている必要がある)
- 医療保険:
- 看護補助者、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士など
- 精神科訪問看護:
- 作業療法士、精神保健福祉士、看護補助者など
算定回数の制限と上限
- 介護保険:
- 算定回数の制限はありません。
- 利用者の状態に応じて必要な回数を算定できます。
- 医療保険:
- 原則として週3回までですが、別表7・8、特指示がある場合などは例外があります。
- 厚生労働大臣が定める疾病等の利用者など、回数制限がない場合があります。
- 精神科訪問看護:
- 原則として週3回まで算定可能です。
- 精神科特別訪問看護指示書が出ている場合は、制限が緩和されることがあります。
注意点:必要性を適切に判断し、過剰な算定にならないよう注意しましょう。
複数事業所間での算定可能性と条件
- 介護保険:複数の事業所で算定できる。
- 医療保険:原則として、指定の回数1回につき、1ヵ所の訪問看護ステーションが算定できる。
注意点:医療保険では、複数事業所間で算定する場合は、事前に関係者間で十分な連携を図り、サービスの重複や漏れがないようにしましょう。
複数名訪問看護加算に関するQ&A
複数名訪問看護加算の運用において、様々な疑問や課題が生じることがあります。ここでは、よくある質問とその回答を通じて、実務上の重要なポイントを解説します。
Q1: 算定回数が不足する場合の対応策は?
A1: 算定回数が不足する場合、以下の対応策が考えられます。
- 利用者の状態を再評価し、必要性を明確に記録する
- 主治医と相談し、特別指示書の発行を検討する
- 他の訪問看護ステーションや訪問介護事業所と連携し、サービス提供体制を強化する
- 算定できない場合でも、必要に応じて複数名で訪問し、安全性を確保する
重要なのは、利用者の安全と適切なケアの提供を最優先することです。算定の有無にかかわらず、必要な場合は複数名で訪問することを検討しましょう。
Q2: 複数名訪問看護加算と他の加算との併算定は可能か?
A2: 複数名訪問看護加算と他の加算との併算定については、以下のように考えます。
- 基本的に、複数名訪問看護加算は他の加算と併算定が可能です。
- ただし、同一の理由による加算の重複算定はできません。 例:複数名訪問看護加算(Ⅰ)と(Ⅱ)の同時算定はNG
- 注意が必要な加算の例:
- 長時間訪問看護加算
- 夜間・早朝訪問看護加算、深夜訪問看護加算
- 緊急時訪問看護加算
併算定の可否は、各加算の算定要件を確認し、適切に判断することが重要です。不明な点がある場合は、保険者や関係機関に確認しましょう。
複数名訪問看護加算の適切な運用には、これらの疑問点を理解し、適切に対応することが重要です。常に最新の制度情報を確認し、利用者のニーズに合わせた質の高いサービス提供を心がけましょう。
まとめ:複数名訪問看護加算の効果的な活用と今後の展望
複数名訪問看護加算は、利用者の安全確保と質の高いケア提供を支援する重要な仕組みです。介護保険、医療保険、精神科訪問看護の各制度で運用されており、利用者のニーズに応じた柔軟な対応が可能です。
この加算を適切に活用することで、身体的負担の大きい処置や精神的サポートが必要な場面で、より安全で効果的な看護ケアを提供できます。一方で、算定には利用者の同意や適切な記録保持など、いくつかの注意点があります。
高齢化の進展と在宅医療ニーズの増加に伴い、複数名での訪問看護の重要性は今後さらに高まるでしょう。多職種連携の推進やテクノロジーの活用など、新たな取り組みも期待されています。
明日からの実践に向けて、自身の事業所での複数名訪問看護加算の運用状況を見直し、よりよいサービス提供につなげていきましょう。
えがおDE看護は”電子カルテ機能”と”レセプト請求機能”に特化して、26年現場の声や複雑な制度に対応し続けているので、訪問看護ステーション業務をお任せできます。
管理者の本来の使命であるステーション運営を通じた「良質な看護サービスの提供」 に当たり前に集中できる毎日を実現します。是非お問い合わせください。
最後までご覧くださりありがとうございました。