訪問看護のオンコール体制における課題と現状

日々の訪問看護を支えるオンコール体制。現場の声から浮かび上がる実態を見ていきましょう。
小規模ステーションの実態
小規模訪問看護ステーションへのヒアリング調査から、以下の課題が明らかになっています。
課題 | 内容 |
人員不足 | オンコール対応のニーズ増加に対し、看護師不足から特定のスタッフに負担が集中 |
精神的負担 | 電話待機のストレスや緊急時判断の重圧など精神的負荷が大きい |
手当の問題 | 適切な報酬設定が難しく、看護師のモチベーション維持が困難 |
訪問看護ステーションの約9割がオンコール体制をとっており、近年はその対応件数も増加傾向にあります。利用者の重症化や医療ニーズの高まりにより、オンコール対応の重要性はますます高まっているのです。
(参考:R5年厚生労働省「訪問看護 参考資料」p.44-p.49)
訪問看護ステーションの緊急時加算について、現状や算定要件など詳しくはこちらの記事をご覧ください。
≫訪問看護の緊急時加算とは?複雑な医療保険・介護保険の緊急時加算について、わかりやすく解説します!
現場の具体的な問題点
上記の調査結果を踏まえ、現場で実際に起きている具体的な問題点を掘り下げてみましょう。
- オンコール中の過ごし方の悩み
- 電話がいつ鳴るか分からないため、遠出や飲酒ができず、家族との時間も制限されます。常に心のどこかで「電話が来るかも」という緊張感を抱えたまま過ごす負担は想像以上です。
- 電話がいつ鳴るか分からないため、遠出や飲酒ができず、家族との時間も制限されます。常に心のどこかで「電話が来るかも」という緊張感を抱えたまま過ごす負担は想像以上です。
- 電話対応の問題
- 夜間や休日に、実は緊急性の低い問い合わせや相談が多く寄せられることがあります。特に精神疾患を抱える利用者からの頻回な電話に悩まされるケースも少なくありません。
- 夜間や休日に、実は緊急性の低い問い合わせや相談が多く寄せられることがあります。特に精神疾患を抱える利用者からの頻回な電話に悩まされるケースも少なくありません。
- 緊急時の判断の難しさ
- 急変時の対応について、特に経験の浅い看護師は判断に迷うことが多いものです。「訪問すべきか」「救急車を呼ぶべきか」という決断を一人で下さなければならない重圧は大きなストレスとなります。
- 急変時の対応について、特に経験の浅い看護師は判断に迷うことが多いものです。「訪問すべきか」「救急車を呼ぶべきか」という決断を一人で下さなければならない重圧は大きなストレスとなります。
これらの問題は、管理者が1人で対応している場合、さらに深刻です。小規模ステーションだからこそ、スタッフ全員で問題を共有し、チームで協力していく体制づくりが求められているのです。
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訪問看護オンコール対応の労務管理と法的留意点

オンコール体制を円滑に運営するには、法令遵守が欠かせません。看護師が安心して業務に専念できる環境を整えるためにも、以下の点に注意しましょう。
注意点 | 内容 |
待機時間の考え方 | 専門家(社労士等)に相談し、明確なルールを定める |
休憩時間の確保 | 夜間オンコール実働後は十分な休息を保証 |
割増賃金の支払い | 時間外・休日・深夜労働には割増賃金を支給 |
訪問看護オンコールの負担を軽減する方法5つ

オンコールの負担を軽減する方法を紹介します。
①ICTツールによる業務効率化
ICTツール(訪問看護ソフトやコミュニケーションツールなど)オンコール業務の負担を大幅に軽減できます。
メリットとして、以下の点が挙げられます。
- 情報共有の迅速化: 利用者情報をスタッフ間で即座に共有できれば、電話対応時間の短縮につながります。オンコール時に必要な情報を手元ですぐ確認できる環境は、判断の正確さにも寄与します。
- コミュニケーションの円滑化: チャットツールなどを活用すれば、電話だけでなくテキストメッセージでも相談や報告が可能に。情報伝達がスムーズになり、負担感が軽減します。
💡クラウドフォンの導入は、オンコール担当への電話転送をスムーズにし、担当外のスタッフへの負担を効果的に減らせます。
②シフト最適化の具体例
公平で無理のないシフト調整は、オンコール担当の負担軽減に不可欠です。シフトの最適化について、具体的な例を紹介します。
- 当番回数の平準化: スタッフの人数や経験年数を考慮し、オンコール当番を公平に割り当てましょう。特定の人に負担が偏らないよう、シフト作成時に配慮が必要です。
- オンコール免除規定: 家庭事情で夜間対応が難しいスタッフのために、免除規定を設けることも有効。規定はスタッフ全員に明確に周知しましょう。
- 勤務間インターバルの確保: オンコール業務後は、十分な休息時間を確保できるようシフトを調整。疲労の蓄積を防ぎ、安全なケア提供につながります。
- 複数人体制の導入:2人体制での運用も効果的です。緊急時の判断や対応がスムーズになり、精神的負担も分散できます。
③精神的負担の軽減策
24時間体制で利用者に気を配るオンコール担当には、精神的ストレスがつきものです。以下の対策を検討しましょう。
- 相談体制: 上司や同僚との対話を大切にし、悩みや不安を分かち合える環境づくりが鍵。気軽に相談できる窓口があれば安心感が生まれます。
- 研修の実施: 知識やスキル向上のための研修を定期的に開催。緊急時の判断に自信が持てるようになれば、精神的負担も軽くなります。事例検討会は貴重な学びの場となるでしょう。
- ストレスチェックやカウンセリング機会の提供など、看護師の心の健康をサポートする体制整備も重要です。
管理者としては、スタッフが心身ともに健康な状態で業務に臨めるよう、事業所全体でメンタルヘルスケアを推進していくことが大切です。
④複数ステーションとの連携
訪問看護ステーション同士が協力し、緊急時対応体制を構築することも効果的な選択肢です。
R6年改定では、複数ステーションの連携による24時間対応体制加算の算定要件が見直されました。連携体制を検討する際は、地域の自治体や医療関係団体が整備する地域連携体制への参画も視野に入れましょう。

⑤オンコール代行サービスの活用
オンコール負担軽減の一策として、代行サービスの活用も選択肢に入ります。
ただし、24時間対応体制加算や緊急時訪問看護加算を算定している場合は注意が必要です。加算算定のためには、原則として訪問看護ステーションのスタッフが直接対応する必要があります。
24 時間対応体制加算を算定する訪問看護ステーションにあっては、その定める営業日以外の日及び営業時間以外の時間において、利用者又はその家族等からの電話等による連絡及び相談が直接受けられる体制が整備されていること。 なお、当該訪問看護ステーション以外の施設又は従事者を経由するような連絡体制に係る連絡相談体制及び訪問看護ステーション以外の者が所有する電話を連絡先とすることは認められないこと。
(引用:R6年厚労省「訪問看護ステーションの基準に係る届出に関する手続きの取扱いについて」p.8 )
代行サービスは特定業務のみの委託など部分的な利用を検討し、費用対効果を見極めましょう。情報共有体制や業者の実績確認も欠かせません。
訪問看護オンコール時の緊急度判断

オンコール対応において、緊急度の的確な判断は、利用者の安全確保と看護師の負担軽減の両面で重要です。ここでは、緊急時の判断方法と具体的な対応事例を紹介します。
緊急度判断フロー
オンコール時の判断をスムーズにするため、あらかじめフローチャートを準備しておくと便利です。以下は基本的な判断の流れです。
- 状況の聞き取りと初期アセスメント
- 現在の症状や状態を詳しく聞き取る
- バイタルサインや変化の経過を確認
- 緊急度の判断と対応方法の決定
- 電話対応のみで十分か判断
- 緊急訪問の必要性を検討
- 救急要請の必要性を判断
- 緊急度に応じた対応
- 低緊急度:電話での指示や助言
- 中程度の緊急度:緊急訪問による直接確認
- 高緊急度:救急要請と医療機関への搬送手配
- 追加情報の収集と再評価
- 電話では状況把握が難しい場合は訪問
- 認知機能低下や難聴がある場合は特に注意が必要
- 専門的判断と連携
- 必要に応じて主治医や他の医療機関と連携
- 事後フォロー
- その後の状態確認と必要時の訪問
このようなフローを活用することで、迅速かつ適切な判断が可能になります。緊急度判断は独断になりがちで大きなプレッシャーを伴うため、ある程度の経験蓄積も必要になるでしょう。
実際の対応事例集
実際のオンコール対応事例を見ていきましょう。
電話相談で解決したケース 膵臓がんの高齢男性Aさんの妻から「熱が出た」と夜間連絡があり、状況確認。食事は少量摂取、水分はいつも通り摂れており、疼痛や風邪症状はなし。主治医から処方されていた頓用の解熱剤服用を提案。翌朝の電話確認で解熱していることを確認し、ご家族の希望もあり経過観察となりました。 |
緊急訪問で対応したケース 80代お看取り対応中の女性Aさんのご家族から「痰の吸引をしたがうまくとれなくてゴロゴロいって苦しそう、来てほしい」との早朝連絡。看護師が緊急訪問し、適切な排痰ケアと吸引を実施。ご家族も安心され、状況が改善しました。 |
救急要請を行ったケース 重度の呼吸困難や意識障害などの緊急性の高い症状が見られる場合には、救急車要請が必要になることも。電話での救急要請と、訪問後に状態を確認してから要請するケースの両方があります。 |
これらの事例から、状況に応じた適切な判断と対応が求められることがわかります。
夜間や休日のオンコール対応では、利用者やご家族の「あれこれ試したがうまくいかない」「こんな時間に電話して申し訳ない」という思いをくみ取ることも大切です。
日中の適切なケア内容や夕方の一本の電話で、夜間のオンコール頻度が激減することもあります。そういった予防的視点をスタッフ全体で共有し、日々のケアに活かしていきましょう。
訪問看護オンコールの人材確保

オンコール体制維持には、十分な人数の看護師確保と適切な育成が不可欠です。ここでは、オンコール対応可能な人材確保のポイントを解説します。
採用時のポイント
ポイント | 詳細 |
オンコール対応への理解 | オンコール業務への抵抗がないか、積極的な対応意思があるか確認 |
経験やスキル | 緊急時判断に必要な経験・スキルの有無を評価(病院勤務経験も参考に) |
緊急時の連絡体制 | スムーズな連絡が可能か、自宅からの距離や家族の協力体制も考慮 |
採用条件の明確化 | パート採用でも週末月1日などオンコール対応を条件として提示 |
訪問看護オンコール手当の設定方法

適切なオンコール手当の支給は、体制維持の鍵となります。
オンコール手当の相場は地域や事業所規模によって異なりますが、一般的には待機手当として平日1回あたり数千円、休日は数千円~1万円程度が多いようです。実際に訪問した場合には、別途緊急訪問手当が支給されることも一般的です。
手当の金額を決定する際には、以下の点を考慮するとよいでしょう。
- 地域の相場:近隣ステーションの手当水準を参考に
- 業務の負担:実際のオンコール業務量や負担度を反映
- 事業所の規模:持続可能な金額設定を心がける
手当支給方法には、月額固定制や実際のオンコール回数に応じた変動制などがあります。適切な手当設定はスタッフのモチベーション向上と負担感軽減に直結するため、慎重に検討しましょう。
まとめ

この記事では、訪問看護ステーションにおけるオンコール体制の課題と、その解決策を多角的に解説してきました。オンコール体制は利用者の安心を支える重要な仕組みであると同時に、看護師の負担軽減も重要なテーマです。
今回紹介した情報が、管理者の皆様が自ステーションに合ったオンコール体制を構築し、スタッフが働きやすい環境整備の一助となれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。