訪問看護師が辞める”離職率”
令和3年の神奈川県の調査によると、訪問看護師の離職率は17.7%で、病院勤務看護師の離職率13.3%より高い水準となっています。
また、看護職員数(常勤換算) 5人以上の事業所は、5人未満の事業所より離職率が低い結果が出ており、中規模以上の事業所の方が離職率が低いことがわかります。
(出典:「令和3年度看護職員就業実態調査(訪問看護ステーション)結果概要」)
訪問看護師が辞める理由
訪問看護師の離職率が高い背景には、様々な要因が複雑に絡み合っています。
訪問看護特有の大変さ・ストレス
訪問看護は、病院勤務とは異なる特有の大変さやストレスがあります。これらが積み重なることで、訪問看護師の離職につながることがあります。
オンコール当番の負担
多くの訪問看護ステーションでは、24時間365日対応の体制をとっており、オンコール当番が必要不可欠です。しかし、これが大きな負担となっています。
オンコール当番は、訪問看護師の仕事の中でも特にストレスが高い業務の一つです。突然の電話や緊急訪問に対応する必要があり、常に心の準備をしておかなければなりません。これにより、休日でもリラックスできず、心身ともに疲労が蓄積されやすい状況にあります。
またステーションによっては、管理者や独身者、男性などにオンコール当番が偏りやすいといった状況による負担もあります。
政府は、2024年の診療報酬・介護報酬改定で、オンコール当番負担軽減のために、報酬アップや適用条件などの緩和策を講じました。
一人での訪問によるプレッシャー
訪問看護では、一人で利用者宅を訪問することが多く、これが大きなプレッシャーとなることがあります。
病院では複数のスタッフで対応できる場面でも、訪問看護では一人で判断し行動しなければなりません。この責任の重さが、特に経験の浅い看護師にとっては大きな負担となります。また、訪問先での予期せぬトラブルや緊急事態に一人で対処しなければならない状況も、ストレスの要因となっています。
厳しい労働環境への対応
訪問看護の労働環境は、病院勤務と比較してより厳しい面があります。
訪問看護師は、雨や雪、猛暑など天候に関わらず訪問しなければなりません。また、訪問先への移動時間も労働時間に含まれるため、実際の労働時間が長くなりがちです。さらに、利用者の状態や要望に合わせて訪問時間を調整する必要があり、不規則な勤務になることも少なくありません。
待遇面での不満
訪問看護師の待遇面での不満も、離職の大きな理由の一つです。特に、病院勤務との比較で不満を感じる看護師が多いようです。
病院勤務との給与格差
訪問看護師の給与は、病院勤務の看護師と比較して低いケースが多く、これが不満の原因となっています。
多くの訪問看護ステーションは小規模経営であるため、大規模病院のような給与体系を整えることが難しい状況にあります。また、訪問看護では夜勤がないため、夜勤手当などの収入が見込めません。さらに、病院では様々な役職や専門性に応じた手当がありますが、訪問看護ではそういった制度が整っていないことも多いです。
福利厚生の不十分さ
訪問看護ステーションでは、福利厚生面でも病院に比べて不十分な点が多く見られます。
小規模な訪問看護ステーションでは、スタッフが少ないため病院と比べ休暇を取りにくい環境にあることが多いです。土曜日や祝日営業や、24時間体制の事業所では、小規模になるほど1人あたりの負担が大きくなる傾向にあります。
また、病院のような充実した研修制度や教育プログラムを用意することが難しく、看護師のスキルアップやキャリア開発の機会が限られています。さらに、子育て中の看護師をサポートする制度や、スタッフの健康管理を支援する仕組みが整っていないケースも少なくありません。
職場環境や人間関係の問題
訪問看護ステーションの職場環境や人間関係の問題も、離職の大きな要因となっています。
不明確な方針による混乱
訪問看護ステーションの方針やルールが不明確な場合、スタッフの混乱を招きます。
方針やルールが明確でないと、スタッフ一人ひとりの裁量に任される部分が多くなり、対応にばらつきが生じます。また、独自のルールが多すぎると、制度に則った適切なサービス提供ができているか不安になりかねません。
管理者がよく変わることよる不安定さ
管理者の頻繁な交代は、スタッフに大きな不安と混乱をもたらします。
管理者が頻繁に変わると、その都度新しい方針や運営方法に適応しなければならず、スタッフの負担が増大します。また、慣れ親しんだコミュニケーション方法や業務の進め方が変更されることで、効率が低下したり、ストレスが増加したりすることがあります。さらに、チーム全体の雰囲気が変わることで、人間関係にも影響が出る可能性があります。
多職種連携の難しさ(特に看護師とリハビリ職)
訪問看護では、多職種との連携が不可欠ですが、特に同じステーション内の看護師とリハビリ職との連携に課題がある場合が多いです。
看護師とリハビリ職の連携には以下のような課題があります。
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訪問看護師の離職を防ぐ効果的な対策
ここからは、訪問看護師の離職を防ぐための効果的な改善策について紹介します。
労働条件と福利厚生の改善策
訪問看護師の定着率を高めるためには、労働条件と福利厚生の改善が不可欠です。
給与改善のポイント
ワークライフバランスを考慮したシフト作成
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コミュニケーションと組織の雰囲気改善
良好なコミュニケーションと風通しのよい組織は、訪問看護師の定着率向上に大きく影響します。
効果的な面談と相談体制
チームビルディングの取り組み
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さまざまな働き方があるステーションではなかなか全員顔を合わせることも少ないため、ランチミーティングを定期開催するなど、実情に合わせた工夫をしましょう。
多職種連携の強化
訪問看護ステーション内でも他の専門職との連携が欠かせません。特に看護師とリハビリ職の連携強化が重要です。
相互理解を深める取り組み
効果的な合同カンファレンスの持ち方
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透明性のある組織運営とリーダーシップ強化
組織の透明性を高め、管理者のリーダーシップを強化することで、スタッフの信頼感と帰属意識が高まります。
明確な方針とルールづくり
1. 経営理念と事業方針の明確化:具体的に、数値などを用いて伝えましょう。
2. 業務マニュアルの整備と更新:日々の業務の流れや手順を文書化し、定期的に見直すことで、一貫性のあるサービスを提供します。
3. 評価基準の透明化:スタッフの評価項目と基準を明確にし、公平な評価システムを構築します。
4. 法令遵守の指針作成:関連法規や倫理規定をまとめ、全スタッフが適切に業務を遂行できるようにします。
効果的な情報共有
日々の業務では、電子記録システムや連絡ツールを活用して、リアルタイムでの情報共有と円滑なコミュニケーションを図りましょう。
また、オフィスには情報共有ボードやノートを設置し、重要な連絡事項や予定を視覚的に把握できるように工夫できます。
これらの方法を組み合わせることで、スタッフ全員が必要な情報を適時に得られ、チームワークの向上と業務の効率化につながります。
管理者の管理能力向上
訪問看護師の離職防止には、なんといっても管理者の能力向上が欠かせません。以下の取り組みを通じて、管理者のスキルアップを図りましょう。
- リーダーシップ研修の実施
- コーチング・メンタリングスキルの習得
- 労務管理・人材育成の学習
- 経営者との定期的な連携会議
≫関連記事:「訪問看護ステーション管理者のよくある悩みを解決!効果的なマネジメントを徹底解説」
これらの対策を総合的に実施することで、訪問看護師の離職率を低下させ、安定した組織運営を実現できます。
訪問看護師のモチベーション維持・向上策
公的保険の中では、労働条件の改善には限界があります。処遇の改善のために経営に影響が出たり、管理者1人に負担がかかるようでは持続的な経営はできません。
そのため、訪問看護師の離職を防ぐためには、スタッフのモチベーションを維持・向上させるしくみづくりも重要となります。
新人訪問看護師の定着をはかる環境づくり
新人訪問看護師が安心して業務に取り組み、働き続けられる環境を整えることは、組織全体の安定につながります。
看護師側も、意を決しての転職のはず。その決意を無駄にしないためにも、入職後のギャップを減らし、安心して働きやすい環境づくりをしなければなりません。
段階的な実地訓練と丁寧な現場指導のポイント
- OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)プログラム:実際の業務の中で学ぶ
- 手技的なことだけでなく、制度や他職種連携のフローについても現場を通して指導して行く
- 定期的なスキルチェックと振り返り
例えば、入職後3か月間は経験豊富な先輩看護師が同行し、徐々に一人で訪問できる件数を増やしていくなど、段階的な実地訓練を行います。
メンター制度の導入とサポート体制の強化
メンター制度を導入することで、新人看護師は業務上の悩みだけでなく、精神的なサポートも受けられます。
- 経験豊富な看護師をメンターとして配置
- メンターのスキルアップにもつながる
メンターは、月1回のスキルチェックを実施し、不安や課題を早期に把握・指導することで、新人看護師の成長を支援します。仕事の進捗だけでなく、将来のキャリアプランなどについて話し合う機会も設けるとよいでしょう。
やりがいを感じられる職場環境づくり
新人から中堅・ベテランまで訪問看護師がやりがいを持って働き続けられる職場環境を整えることは、モチベーション維持・向上の鍵となります。
スキルアップ研修と資格取得支援
- 専門分野別の研修プログラム実施
- 外部セミナーへの参加支援
- e-ラーニングシステムの導入
- 資格取得費用の補助制度
例えば、認定看護師や専門看護師の資格取得を目指す看護師に対し、研修費用の補助や勉強時間の確保など具体的なサポートを行います。
また、月1回の社内勉強会で最新の医療技術や知識を学ぶ機会を設けるなど、継続的な学習環境を整備します。自社で行うことが難しい場合も、さまざまなオンデマンド研修などが利用できます。
キャリア開発支援とキャリアパスの明確化
キャリアパスを明確化することで、訪問看護師が自身の将来像を描きやすくなります。
例えば、「一般職→主任→管理者」といった役職別のキャリアパスや、「認知症ケア専門」「緩和ケア専門」といった専門性に特化したキャリアパスを提示します。
年1回のキャリア面談で個々の希望や適性に応じた計画を策定し、計画的なスキルアップを支援するとよいでしょう。
モチベーション向上のための評価・表彰制度
公平で透明性の高い評価制度を導入し、頑張りが正当に評価される仕組みを作ることで、モチベーション向上につながります。
- 客観的な評価基準の設定
- 定期的な評価面談の実施
- 表彰制度の導入
- 成功事例を共有する機会
例えば、半期ごとの評価面談で具体的なフィードバックを行い、改善点や今後の目標を明確にします。
ワークライフバランスの実現
ワークライフバランスを重視することで、長期的なモチベーション維持につながります。
- 有給休暇取得の促進
- 育児・介護支援制度の充実
- 副業・兼業の許可制度の導入
- リフレッシュ休暇の設定
例えば、有給休暇の計画的取得を促進し、年間取得率80%以上を目指すとともに、子育て中の看護師向けに短時間勤務制度や在宅勤務制度を導入するなど、個々のライフステージに合わせた柔軟な働き方を支援しましょう。
メンタルヘルスケアと相談体制の整備
スタッフのメンタルヘルス不調を早期に発見・対応し、スタッフの心身の健康を守りましょう。
- 外部カウンセラーによる定期相談の導入
- ストレスチェックの定期実施と結果に基づく面談
- メンタルヘルス研修の実施
離職率の低い訪問看護ステーションの取り組み事例
最後に、スタッフの離職率の低い訪問看護ステーションの事例を紹介します。これらの取り組みから、訪問看護師の離職防止につながるヒントが得られるかもしれません。
みなが帰ってきたくなる事務所を目指しています‼
1. 良好な人間関係の構築 ・相手の負担を軽減するために自発的に行動する ・お互いの感情を共有し合う ・互いを認め、尊重し、高め合う 2. 明確な目標設定と理念の浸透 ・全員で同じ方向性を持って進む 3. 職員を大切にする職場環境 ・スタッフの自主性を尊重する ・スタッフの意見に耳を傾け、改善に努める ・柔軟な働き方を提供する ・メンタルヘルスケアを含めた健康管理支援 4. 成長の機会の提供 ・新人教育とメンタリング制度の充実 ・継続的な学習と成長の奨励 5. 公正な評価と報酬体系によるモチベーションの向上 ・多面的な評価制度の導入(例:360度評価※) ・成果に基づく報酬制度の整備 ※360度評価:上司、同僚、部下など、様々な立場の人から多面的に評価を受ける制度 |
まとめ|訪問看護師が定着する職場づくり
訪問看護師の離職を防ぎ、定着率を高めるには、労働条件の改善だけではなく、明確な目標設定と理念の浸透、教育システムの構築などの多角的なアプローチが必要です。そして何より、改善しようとする意思が経営・管理者側にあることが重要です。
訪問看護師が働きやすく、やりがいを感じられる職場づくりは、一朝一夕には実現できません。しかし、小さな改善を積み重ね、粘り強く取り組むことで、必ず成果は表れます。スタッフ一人ひとりを大切にし、共に成長できる組織を目指して、今日から1つずつでも行動を起こしましょう。
えがおDE看護は”電子カルテ機能”と”レセプト請求機能”に特化して、26年現場の声や複雑な制度に対応し続けているので、訪問看護ステーション業務をお任せできます。
管理者の本来の使命であるステーション運営を通じた「良質な看護サービスの提供」 に当たり前に集中できる毎日を実現します。是非お問い合わせください。
最後までご覧くださりありがとうございました。